はじめに
本記事では、Solana上のDeFiプラットフォーム Kaminoファイナンス が提供する Multiply(マルチプライ) 取引 (https://app.kamino.finance/earn/multiply) について解説します。
MultiplyにはJLPのMultiplyもありますが、以下はLST(リキッド・ステーキング・トークン)に限定して解説しています。
本記事は執筆時点のKaminoファイナンスの公式docsを元にしています。最新の情報はそちらをご参照ください。
Kamino LST Multiplyとは
Kamino Multiply は、 Kaminoファイナンス が提供するレバレッジ・レンディング機能です。
これにより、ユーザーは自分の保有する LSTなどの利回り資産 に対して、流動性を損なうことなく 複利的にレバレッジ を効かせた運用が可能です。
担保となる資産を預けた後、その担保価値に応じてSOLを借り入れ、借り入れたSOLを再び担保資産に換えて投入するサイクルを自動化します。
(マルチプライ、ルーピング、ぐるぐる、レバレッジ・レンディングなどと呼ばれます)
picoSOL/SOLペアの7.5倍マルチプライを例にすると
- 1 picoSOLを元にして
- 6.5 picoSOL相当のSOLを借り入れ、7.5 picoSOLを担保資産として保有する
というポジションを構築する仕組みです。
LSTなどの利回り資産にレバレッジをかけてより効率的な運用が可能になります
Multiplyの仕組み
1. eMode(Elevation Mode)
Kamino Multiplyでは、eMode(Elevation Mode) と呼ばれる仕組みを活用し、担保資産と借入資産が価格連動性を持つ場合に、通常より高い貸出比率(Loan-to-Value, LTV) を設定できます。
たとえば、JitoSOL/SOLペアのMultiplyでは、通常のLTVは75%(最大4×レバレッジ)ですが、eModeを適用することで90%のLTVが可能となり、最大10×レバレッジ が実現可能になります。
これにより、同じ担保資産に対してより大きな借入額を許容でき、より高いレバレッジを構築できます。
2. Flash Loan活用
Flash Loan(フラッシュローン) は、担保なしで一時的に資産を借りられるDeFiの技術です。Kamino Multiplyでは、以下の手順でFlash Loanを活用します。
- ユーザーが初期担保資産と目標レバレッジ倍率を入力
- 必要なSOL量をFlash Loanで借り入れ
- 借りたSOLをLST(例:picoSOL)にスワップ
- 取得したLSTを担保として供給
- SOLを借り入れFlash Loanを返済
Flash Loan手数料は0.001%が掛かり、さらに借入利率(Borrow APU) と スワップ時のスリッページ が実質コストとして反映されます。
3. LSTオラクルの動作
従来、LST(Liquid Staking Token)の価格を市場価格(DEX上の価格)で評価すると、流動性が低い場合に多額の取引がされた場合、LSTが市場で大きく 価格乖離(デペグ) する可能性がありました。
Kaminoでは、LSTオラクル として Stake Poolの内部データを用い、理論価格 を算出します。
具体的には:
**LST理論価格 = ステークされたSOL / 発行されたLSTの量**
- エポックごとにステークプール内のSOL残高は増加(ステーキング報酬)
- LST(例:picoSOLなど)の総発行数は安定
- したがって、エポックを重ねるごとにLSTの理論価格は上昇
このアプローチにより、市場でLSTが 価格乖離(デペグ) しても 清算が発動しない よう制御されます。
市場価格 ではなく 理論価格 を参照するため、流動性不足や多額の取引による誤った清算リスクが排除できます。
LSTが価格乖離(デペグ)しても清算は発生しません
Multiply取引の例
📌 前提条件
・元本:1 SOL
・レバレッジ倍率:7.5倍
・picoSOL/SOL 価格比:1.2
・picoSOL APY:8%
・SOL借入金利:6.5%
・LTV:6.5 / 7.5 ≒ 86.67%
🔢 ポジションの構成
・総エクスポージャー:1 SOL × 7.5 = 7.5 SOL相当
・picoSOLへの変換:7.5 SOL ÷ 1.2 = 6.25 picoSOL
・SOL借入額:7.5 - 1 = 6.5 SOL
・LTV:6.5 / 7.5 = 86.67%
💰 年間リターン計算
・ステーキング報酬(8%): 7.5 SOL × 8% = 0.60 SOL
・借入コスト(6.5%): 6.5 SOL × 6.5% = 0.4225 SOL
・純利益: 0.60 - 0.4225 = 0.1775 SOL
・実質APY(元本1 SOLに対して): 0.1775 / 1 = 17.75%
✅ 結論
1 SOLの元本で、レバレッジ7.5倍(LTV ≒ 86.67%)をかけると、年間17.75%の実質利回りが見込まれます。
Multiply取引のメリット
1. レバレッジによる収益拡大
- Flash LoanとeModeを組み合わせることで、担保価値を何倍にも増やし、ステーク報酬や流動性提供手数料を複利的に取得できます。
- SOL価格やLST価格が安定または上昇する局面では、レバレッジ効果により通常のレンディング以上のリターンが期待できます。
2. Depeg 清算リスク排除
- LSTオラクルがステークプールの理論価格を参照するため、一時的な市場乖離(Depeg)による不必要な清算を防止できます。
3. 流動性を維持しつつステーキング報酬獲得
- picoSOLや他のLSTを担保にしている間も、基礎となるステークプールでの報酬(ステーキングAPY)を継続的に受け取ることができます。
- 通常のステーキングと異なり、担保をロックしつつレバレッジ運用できる点が大きなメリットです。
Multiply取引のリスク
1. 金利変動リスク
- Borrow APY(借入利率) は需給バランスや金利指標に連動して変動します。金利上昇局面では、借入コストが上昇し、Net APY(純利回り)が急速に低下することがあります。
- 特に高レバレッジ運用では、金利上昇がトータルリターンをマイナスに転じさせる可能性があります。
2. 流動性リスク
- 大規模な清算やマーケットパニック時には、担保となっているLSTや資産の売却注文が急増 し、スリッページ が大きく発生します。
- 想定以上の価格で担保が清算され、回収金額が減少するリスクがあります。
3. 清算リスク
- Multiply Vaultsは債務ポジションを保有しており、LTV比率が清算しきい値を超えた場合、ポジションは清算される可能性があります。
- SOL Multiplyでは、 逆ざや(借入金利がLST利回りを上回る)が一定期間継続 した場合に限り、この状況が発生する可能性があります。
4. 価格乖離(デペグ)リスク
- Multiplyには価格乖離(デペグ)リスクはありません。
5. 自動レバレッジ解消
- Deleveraging(自動レバレッジ解消) は、Kaminoプロトコル全体で特定資産のリスクが高まりすぎた場合に、システム側から強制的に借金と担保を段階的に解消 する仕組みです。これにより、プロトコルの健全性を維持します。
- 通知タイミング:Kamino公式SNS等でマージンコール期間が告知され、その後レバレッジ解消処理が入ります。ユーザーは事前に通知を確認し、手動でLTV比率を回復させるか、自動レバレッジ解消を許容するか判断する必要があります。
6. 社会化損失
- K-Lendで不良債権 が発生した場合、同一プロトコル内の すべての借入ポジションに損失を按分 して割り当てます。
- これにより、特定ポジションだけの損失ではなく、システム全体が一定の影響を受け、 清算しきい値が引き下げられる 可能性があります。
7. スマートコントラクトリスク
- LST発行元(Sanctum、Marinadeなど)のスマートコントラクト に脆弱性がある場合、LST自体が凍結またはハックされるリスクがあります。
- 現在、SolanaにおけるLSTは、SPL(Solana Program Library)、Sanctum(multi, single, INF)、Marinadeのスマートコントラクトがあります。
- 監査については、それぞれのページでご確認ください
まとめ
Kamino Multiplyは、多くの機能を組み合わせることで効率的なレバレッジ運用 を実現する一方、高度なリスク管理 が不可欠です。
特にLSTオラクルによる理論価格参照によってデペグ清算リスクが排除されているとはいえ、他のリスク要素は依然として存在します。
本記事を参考にMultiply戦略を採用する場合は、リスクとリターンのバランスを見極めながら活用してください。
